2019年10月19日土曜日

まずは「価値」「意義」「実在」「法則」(そして因果)とは何かの議論が必要

佐藤春吉著「M.ヴェーバーの文化科学と価値関係論(上)―M.ヴェーバーの科学論の構図と理念型論-多元主義的存在論の視点からの再解釈の試み-その1―」『立命館産業社会論集』立命館大学産業社会学会編・刊、2012年、1~18ページ
http://www.ritsumei.ac.jp/ss/sansharonshu/assets/file/2012/48-3_02-01.pdf

・・・をざっと読んでみた。その2も含めてもう少しじっくり読んでみるつもりだが、とりあえず現時点においていくつか指摘しておきたい。全般的に言えることは、「実在」「法則」とは何か、「価値」「意義」とは何か、そこを突き詰めることなしには、議論そのものが空虚なものになってしまうであろう。

(1)科学は実在世界とは違うものなのか? 「法則」は実在世界から乖離したものなのか?

私は、ヴェーバーの見解は「直接に与えられている実在」と「抽象」との取り違えがなされていると述べた。「実在世界の汲みつくしえない豊かさ」(佐藤氏、2~3ページ)とはいったい何なのであろうか? 科学実験の際の、個別的具体的実験過程は、具体的経験、経験としての実在(それが必ずしも”物体”である必要はなかろう)ではないのか?

私たちの具体的経験は常に個別的・具体的なものである。それが「汲みつくしえない豊かさ」を持つものなのか、「混沌」なのか、そんなことその具体的経験は何も語ってなどいない。「汲みつくしえない豊かさ」「混沌」というものは具体的経験そのものではない。そこから想像的に考えられた”概念”なのである。つまり「汲みつくしえない豊かさ」「混沌」は「実在」そのものであるとは言えないのだ。むしろ、具体的経験から導かれた想定概念、仮説概念なのである。

”抽象”というのは「世界」「社会的なもの」「混沌」の方であり、具体的・個別的、一面的事象の方がむしろ「直接に与えられた実在」なのである。

そして、繰り返すが科学は実在とは違うのであろうか? 「法則」とは現実と乖離したものなのだろうか? 現実を常に適切に説明できているからこそ「法則」たりえるのではないか?

まず(「法則」「個性的因果連関」とを別論理として取り扱う)ヴェーバーの因果論そのものを批判的に検証する必要があるのだ。


(2)「価値」「意義」とは何か?

佐藤氏はリッケルトの価値論について論じているが、果たして価値が「文化客体自身に付着している」とは具体的にいかなる状態のことを指しているのか? 付着している「価値」とはいったい何なのか? そこの分析が全く欠落してしまっている。

もちろんヴェーバーの見解のように、価値が客体に付着しているという見解に批判的な場合においても同様である。

「価値」とは何かの議論が欠落したまま、「理論的価値関係」(佐藤氏、7ページ)と呼んだところで、それがいったい具体的に何のことを指しているのか、不明瞭なのである。

佐藤氏は、「価値」というもの、それ自体を疑うことなしにただただ前提してしまっているのではないか。

そもそも、研究を行う場合、その対象を定める必要がある。選別するのはあくまで具体的対象であり、価値や意義ではない。具体的対象を選定すれば、それに影響を及ぼす具体的要因を探す必要があるから、当然そこでまた選択(あくまで仮説構築ではあるが)する必要がある。ただそれだけのことである。

その対象に影響を及ぼしうると考えられるものに「意義」があり、影響を及ぼさないであろうと考えられるものは「意義」がない、そういった具体的事実関係なのであって、そこに価値というものが入り込む余地などどこにもないのである。

その対象を選んだ研究者の気持ちというものを想像することはできる。しかし、それは研究手法とは全く別の問題である。



・・・これら基本的用語(「価値」やら「概念」やら、あるいは「法則」「因果連関」)の具体的検証なしに、リッケルトやヴェーバー、あるいはその他の学者たちの見解を比較検討したところで、「実在」を取り違えた宙に浮いた”存在論的”議論にならざるをえないであろう。


<関連レポート>
『社会科学と社会政策にかかわる認識の「客観性」』第Ⅱ部の批判的分析
 ~意義・価値理念と事実関係、法則と個性的因果連関、直接に与えられた実在と抽象に関するヴェーバーの誤解
http://miya.aki.gs/miya/miya_report23.pdf

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